みなさま、はじめまして。
私がパティシェの岸上清貴です。

●手作りの個性派菓子を作り続けて

世の中には数え切れないほどのお菓子屋さんがあります。味のよさはもちろんのこと、値段の安さでも競争しなければいけません。
そこで私が考えたのは、「見たことのない形、食べたことのない味」という点でした。

特にこだわったのが、ケーキのフォルムです。例えば、チョコレート・ケーキはどこにでもあるので、フォルムにこだわりました。一方で、オリジナルの味を提供できれば、形はあまり関係ありません。

お菓子の世界では一般的に使わないと思われている素材でも、私は何でも使ってみることにしています。味噌・醤油・塩のような調味料のほか、白あんや黒あんなど和菓子の素材を用いることもあります。豆乳、ゴマ、きなこ、くずも積極的に取り入れてきました。最近はよく見るようになりましたが、桜の花びらやよもぎの葉っぱも使います。ニンジンやカボチャなど、野菜を活用することもあります。

タケノコの風味に春を感じたり、スイカのみずみずしさに夏を感じたりと、多くの人は季節を感じながらいろいろなものを食べているはずです。お菓子にも、そういう季節感を取り入れていきたいのです。


●オリジナルの素材を見つけたい

あるとき「フキノウトウでお菓子が作れないのか?」と思ったことがあります。それはけっきょく、アクの強さとエグみに負けてうまくいきませんでした。どこかで見たものをコピーするのではなく、オリジナルの発想で勝負したいと思っています。

食材のヒントを得るために、デパートの地下を歩くこともあります。もちろんケーキのコーナーではなく、生鮮食品やフルーツの売り場を見て回るのです。その季節に売られている食材を、そのままお菓子にして表現したい。

そう考えると、365日で頭が寝ているときはありません。ウチのスタッフにも、「こんな食材はどうか」と提案してもらいたいですね。若い柔軟さに期待していますし、そういうふうに新しいお菓子が生まれるのが理想です。

店をオープンして1〜2年経った初夏に、近所の公園にヤマモモが実っているのを見つけました。赤紫色に熟した果実を収穫してジュースを搾ってみると、いい香りが立ちこめました。公園や街路樹に植えられていますが、果実の時期でもほとんどの人は通りすぎていくほどです。

これはゼリーにしたらおいしいとひらめきました。ゼリーのおいしさは何かということを考えて、それ以外のものはそぎ落としました。ふれるとぷるぷる揺れるほどで、それでいて溶けない固さという、ぎりぎりの食感を求めたのです。

当時は、オレンジ、カリン、コーヒーのゼリーが主流で、来店したお客さんに「ヤマモモのゼリーしかないんですけど……」と説明していたほどです。

結果的に、それが大当たりしました。食べたことがない素材は、ほとんどのお客さんが興味を持ってくれます。あとは、またそれを買ってくれるかどうかです。ただし、そんなお菓子も時間が過ぎると新鮮味がなくなり、ほかの店でも売られるようになってしまいます。そんなこともあって、常に2年先に使える素材を探していることになります。


●旬の時期が待ち遠しくなる

いつも新鮮な素材を探しているといっても、スランプになって何もアイデアが出ないことがありました。しかたなく、気分転換に妻と二人で温泉に行くことにしました。旅先でたまたま見つけた懐石料理の店に入ったところ、透明な蜜の中に小さなミカンが入ったデザートが出てきたのです。

それを見て、自分の中でどんどんイメージがふくらんできました。でも、もうミカンのシーズンは終わりかけていたのです。翌年、ミカンの旬が始まるまで、わくわくして待ちました。

暑い夏には、モロヘイヤやゴーヤーをジュースにして飲んでみました。生で味わったあと、加熱したらどうなるか試してみます。すべてのものがお菓子の素材になる可能性を秘めていると思います。

ひとつずつ試しながら「これ!」と思える素材を見つけたときはうれしくてしかたないですね。使いたい素材が見つかったら、あとは何と組み合わせるかを考えていきます。あれこれイメージしながら頭の中ですぐ試作に取りかかるのです。もう、早く形にしたくてしょうがないんですよね。


●健康にいいものを提供したい

大学時代から考えていたのですが、私は健康か教育に関わる仕事に就きたいと思っていました。教師になろうと思ったこともあり、通信教育の仕事をしたこともありますが、それはうまくいきませんでした。

そしてけっきょく、フランス料理の世界に飛び込みました。シェフの道に進むつもりが、デザートのおもしろさに気づいて、最後はパティシェの仕事をするようになりました。

オーガニックの食材やDHA(ドコサヘキサエン酸)などにも関心を持って、入れてみたこともあります。ビタミンCが豊富なフルーツと聞けばすぐに使いましたし、お菓子の素材として知られていない素材でも、とにかく一度は試してみます。

砂糖に関しても、今はトレハロースをメインに使っています。トレハロースとは、砂糖と同じ成分を持つ天然の糖質で、虫歯になりにくくて、さっぱりした甘み(砂糖の45%)があります。そのほか、ブドウ糖も使っています。もちろん、砂糖が必要なところには、きちっと使っています。


●素材の味を生かして

ホテルのパティシェをしていた時代に、スイカのソルベ(シャーベット)を作っていました。スイカのデザートは難しくて、お菓子にすると生臭くなったり、水っぽくなってしまうのです。

ベルギーだったかスペインだったか忘れましたが、スイカをアイスクリームの中に入れて食べているのを見かけました。それまで、ゼリーにすればおいしいことはわかっていましたが、自分では納得できなかったのです。ところがその光景を見て、スイカはそのまま食べたほうがおいしいということに、あらためて気づかされたのです。

トロンコーニで提供しているスイカのケーキは、スポンジの上に大きく輪切りにしたスイカをのせて、いちばん上にも小さく切ったスイカをあしらっています。一口食べてもらえばわかりますが、夏の暑い時期にスイカを丸かじりする食感が楽しめます。

それから、ビシソワーズ(冷静スープ)風のお菓子を作りたくなり、枝豆のケーキを考えました。枝豆のスポンジをきなこクリームで巻いて、豆乳のババロアをのせ、枝豆のババロアをのせ、いちばん上は枝豆のクリームで仕上げます。

今年のコンセプトは「ヘルシーなお菓子」です。枝豆やそら豆はどんどん使っていきたいですね。それから、夏は野菜や果物の種類が増える季節なので、いろいろなアイデアが出てくるはずです。

素材に向かい合わないと、いいお菓子はできないと思っています。もちろん、基本となる小麦粉・牛乳・卵・塩なども、試行錯誤しながらいいものを選んできました。例えば、オープン当初は無調整の牛乳を使っていましたが、今はジャージーを使用しています。1年未満の若鳥の卵が手に入ったときは、その力強さに感激しました。スポンジの膨らみ方や歯ごたえ、風味がまったく違ったのです。

また、シュークリームにしても、毎朝、できたてのおいしさを味わっていただくために、大量生産はしていません。なので、売り切れのお菓子が出ることもあります。

季節感を味わっていただきたいこともあり、来るたびにショーケースに並んでいるお菓子が違うかもしれませんが、ぜひ一度、トロンコーニのお菓子を食べてみてください。





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